研究レポートReport

第36回 内観力 『親指と小指は日本人の文化』

右手の親指と小指を繋げて、、左手の手首の骨(内果・外果)を押さえる方法が見つかってから
自分自身の身体を使って、いろんな動作をしてみるのだが面白いくらいに身体が楽に動けるようになる。
結果的には素晴らしい効果が出るのだが、なぜ、この方法で出るのかが分からないのである。

いろんな本を読んでもみたし、ネットでも探してみるのだが参考になるものがない。

数学のように、式があり、そこから答を求めるのであればいいのだが
その逆で、答が分かっているのだが、その式が何なのかが分からない。

悪戦苦闘する中で、ある日、子供が上手く、『箸』をもてない動作を観ていた。

親指を使って、握り箸にすると『箸』は上手く動かない。

親指を使わないで動かすと『箸』は上手く動く。

この動作を観てから、親指を握りながら歩いてみたところブレーキが掛かったように前に進みにくくなった。
逆に、小指を握りながら歩いてみたところエンジンが掛かったように前に進みやすくなった。

また、小指を握り締めた瞬間に"臍下丹田"に力が入るのが体感できた。

もう一度、『箸』を持って親指に力を入れてみると指全体に力が入ってしまい箸を上手く動かすことが出来なくなる。
今度は、『箸』を持って親指の力を抜いてみると残りの指がスムーズに動いてくれるのだ。

次に頭に浮かんできたのは、小学校時代に習っていた『習字』であった。

昔は、鉛筆もシャーペンもなく、書くものといえば『筆』しかなかった。
『筆』を握る時も同じように、親指は添えておくだけであまり使わない。

達人の書道家は、"手先で書くのではなく、腹で書くのだ!"と云っていたことを思い出した。

おそらく、小指を中心に上手く動かすことにより、"臍下丹田"が発動することにより
『気』の入った字が書けるのではないかと思う。

大学時代に一時、仁侠映画に凝ったときがあった。

ピストルのない時代は、『ドス』で人を殺めていた。
ヤクザから足を洗うときには、小指を詰めさせられていたが
小指がなくなると力が入りにくくなり、結果として『ドス』を握り締めても人を殺めるほどの力が出ないのである。

その後、佐久間先生のお宅へお伺いしたときに
この話をしたところ、面白い話を聞くことが出来た。

昔の『笛』は、縦笛ではなくて横笛だったそうだ。
横笛もやはり親指は添えているだけで使わないようになっている。

日本人が手先が器用なのは、親指を使わないようにしているからではないかという話になった。

よくよく考えてみたら、外国の方は、フォークとナイフで食事をされる。
そのときに、メインで使う指は、親指になっている。

私は、恥ずかしながらフォークとナイフを使う料理を食べるのが少し苦手である。
なぜならば、肩が凝って疲れてしまうからだ。

この時までは、その理由が分からないでいたのだが身体の感覚は正直に反応していたのだ。

それから出てきたのが『ピアノ』の演奏している方の動作であった。
リズムに乗って、激しく頭を前後に動かしたり、肘から下の部分を上部に持ち上げたりした動作は、
もしかしたら、親指を使ったことによるストレスを逃がすための動作ではないかという話になった。

後日、ピアノやギターの演奏をしている方にお話を聞く機会があった。

その方に、聞いてみたところ、最後まで上手く演奏が出来ることの方が少ないという。
理由は、運指が必ず疲労のため動きにくくなってしまうからだという。

親指を使いすぎるために疲労がたまることで他の指に影響が出るばかりではなく
筋肉を過緊張させるために、前腕部や肩周りの部分にも影響が出てくるようだ。

足の指にしても、昔は、わらじや雪駄や下駄を履いていた。
親指と人差し指で紐を鼻緒を挟むことで親指の力を抑えていたと思う。
そして、中指を中心にすることにより身体はバランスを取りやすくなる。
(この事は、野口整体を受けてみて確信していた。)

スポーツ選手であれば、一度、試して頂きたいのだが
足の親指と手の親指を曲げて力を入れて歩いてみると上手く前に進めないのが体感できるはずである。
その後、前屈をしてみると柔軟性が硬くなっていることが分かると思う。
また、歩いただけなのに腕を回してみるとスムーズに回らなくなっていることも分かるはずだ。

今度は、手の指は小指を曲げて力を入れ、足の指は中指を中心にして
どちらかというと小指側に少し意識を持って歩いてみた頂きたい。

親指の時に比べて、楽にスムーズに歩けることを体感できると思う。
同じように、前屈をしてみると柔軟性が向上して柔らかくなっているはずだ。
腕を回してみても親指のときのような違和感がなく、スムーズに腕を回すことができていると思う。

スポーツ選手が、この動作を覚えるだけで身体の動かし方が根本から変わるはずだ。


我々、日本人は昔から、『箸』、『筆』、『笛』を使いながら自然と親指を使わないようにして
身体を負担がかからないようにしていたのだと思う。

また、畑仕事で使う『鍬』、戦で使う『刀や槍』、生活に必要であった薪割りや井戸の水汲みなど
どの動作においてでも親指を使うと、"道具"を上手く使いこなすことが出来なかったし
長く作業を続けることが難しかったのである。
(一部、親指の背中部分を活用する方法もありますがここでは割愛します。)


以前、プロ野球のパーリーグの方で、ある球団のスカウトのMさんとお話する機会があった。

150キロの球を打ち返すには、親指でしっかりと地面を押さえて軸を作らないと打ち返すことが出来ないと仰った。
しかし、私はすぐさま、親指に力を入れてしまうと、ふくらはぎや大腿四頭筋に力が入ってしまうので腰を回すことが出来なくなり
その状態でも無理やり動かそうとするから、膝や腰を痛めてしまう選手が多いことを指摘した。

親指ではなく、中指を中心とした動作の方が上手く身体を使いこなし
結果的に、パワーもスピードも出て身体にも負担がないからと実技指導を交えながらお伝えした。

また、腕相撲の実技をしながら力の発生と伝達経路(パワールート)を
体感して戴いたがあまりの違いに大変驚かれていた。

その後、ストレッチと骨整体の違いも体感して戴いが
面食らったハトのように首を傾げていた。

世界に通用したバッターは、王 貞治選手とイチロー選手の二人だが
共通していることは、"一本足打法"である。
踏ん張っているのか流れるように打っているのか観てみれば一目瞭然。

球を打つのはバットの仕事であって、
バットに力を伝えることが身体の役目なのである。

パワールートを生み出すことも失うことも指の使い方ひとつで現実が変わる。



次回の内観力は、『くるぶしにも秘密があったとは!』です。12月10日の予定です。

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