研究レポートReport

第44回 内観力 ~からだの声を聞く~ No .5 『体幹部の鍛え方を再検証してみる』

”体幹部の鍛え方”を書こうと思っていたら
夏休みで自宅に居た長男が先日録画していた番組を観ていた。

NHK『ミラクルボディ』ウサイン・ボルト選手の特集。

キーボードを叩こうとしたが手を止めてテレビの画面を見つめた。
そして、すぐさま内観力にスイッチを入れてボルトの動作を観始めた。

ハイスピードカメラを使って、ボルト選手の走りを撮影した映像を長男と観ていたが
相変わらず、ボルト選手の『鎖骨』の動きは素晴らしかった。

走る映像が写るたびに長男に説明しながら確認していった。

スポーツ科学者の方がボルト選手の走り方を
常識では考えられない走り方をするので理解することが出来ないと言う。

そのことをボルト選手に言ったが、、、

僕はランナーだから難しいことは分からない!
聞くのではあればコーチに聞いてくれ~      とボルト選手は応えていました。

私は、このやりとりを観て一人でニヤッ~と笑いました。

なぜなら、常識で考えられない走りをしたから世界新記録が出たのでしょう?
その秘密を調べている人が常識の範疇で調べて何が分かるのだろうか?

”選択肢がない!”

この一言に尽きると思う。

番組の中で、骨の映像を使ってボルト選手の走り方を解説していたが
あの映像を観て、何故、”骨身に任せる走り”に気がつかないのだろうか?

走ることはや動作はすべて筋肉で行っていると思っている人であれば
なおさら、骨を意識的(ボルト選手は無意識だと思う)に動かすことなど毛頭ないのであろう。

一番面白かった映像は、パウエル選手とボルト選手の走りを比較して前から写した映像で見せた
ボルト選手の『鎖骨』の動きかたの素晴らしいこと、、、

御丁寧に角度まで表示してくれていましたが
あの動作の凄さを一体どれぐらいの人が気付いているのであろうか?

しきりにスポーツ科学者と呼ばれている人達は口を揃えて
骨盤や上体(鎖骨とは言っていない)の大きな動きはロスになりケガの元と言っていた。

しかし、ボルト選手の走りの強さは
位置エネルギーの高さを”骨盤”ではなく”鎖骨”の高さから発生しているということである。

まるで、鎖骨にシューズを履かせているかのように地面をグリップさせている。

ボルト選手は背骨の病気の影響から
この走るフォームを作り上げていったと言っていたが果たして本当にそうなのだろうか?

そして、背骨の影響で肉離れ、、、と言う話があったが
背骨が真っ直ぐな選手であってもスプリンターであれば誰もが肉離れや筋膜炎にはなる。

それよりも、ボルト選手の体格を観れば
あれだけの足の長さがあれば、”テコの原理”で足に掛かる負担が大きくなるのは必然である。

コーチの方もボルト選手の足の長さで100Mのスタートダッシュを速く走ろうとすれば
おのずと足への負担が増大することは鼻から分かっている話である。

ボルト選手みたいな長身の選手が
あのスタートダッシュで見せた『つま先接地』をすれば、
アキレス腱やハムストリングスに大きな負担がかかるのは当然のことである。

スタートだけで観るとパウエル選手の方がフラット着地をしているので
足への負担率は少なくなって当たり前なのだ。

北京オリンピックで見せた、ボルト選手の爆発的な加速力の原動力は筋肉ではなく『骨』である。

”鎖骨”と”骨盤”を上手に連動させることにより
体幹部からの『力』の発生を起こし、腕や足にその『力』を伝達していく。

まるで、扇子やアコーディオンのように体幹部を『ジャバラ』のように使いこなす。

体幹部を固めるトレーニングをしている選手に、この動作をすることは無理である。

さすがのボルト選手も体幹部を固めるトレーニングをしすぎると『骨』の可動域が狭まり
その時の走り方は、彼独特の体幹部をダイナミックに動かして走る姿はそこにないだろう。

ボルト選手と他の選手の動作が大きく違うところは
中間走から後半にかけての体幹部の動かし方である。

あの身長から繰り出される位置エネルギーからの『力』の発生。
ボルト選手は『鎖骨』高さからで、他の選手はせいぜい『骨盤』の高さからである。

今、流行の体幹部トレーニングは、”体幹部を固める”ことが体幹部の力を向上することと勘違いしている。
だから、体幹部を動かすという発想は思いつかない。

『固定』=『安定』

この図式が正しいと思っているうちは分からないと思う。

しかし、本当に求めていかないといけない事は

『不安定』=『安定』なのだ。

前述した、スポーツ科学者がボルト選手の走りはブレが生じて走りにロスが出ると言っていたが
実際は、ブレが生じて不安定な状態になるので身体は自然に安定状態の戻ろうとするのである。

つまり、安定を求めるのであれば逆に不安定にしなければならない。

もっと分かりやすく言うと、アンバランスにしなければ本当のバランスは取れない!

ボルト選手は空中動作で上体を崩してアンバランスな状態を意図的に作り(この時に大きな『力』を作り出している。)
接地に向かうにつれて身体は自然にバランスを保とうと働くので安定した状態で地面にすごい『力』を伝えることができる。

元々、人間の歩く動作ですらバランスを崩しながら歩いている訳で
重心を崩しながら動くことが基本なのに、どうして重心を崩すことを難しくするトレーニングをするのか意味が分からない。

バランスを崩すことを積極的に走りに取り入れたボルト選手だから
ケタ外れの速さを出せた結果、世界新記録が生まれた。

ただ気になるのが、北京の時の腕の振り方と現在とでは違ってきている。

北京では、鎖骨を上手く使いこなして腕を錘として見事な腕振りをしているのだが
最近のレースを観るかぎり、鎖骨の動きを妨げる腕振りになっている。

ロンドンオリンピックで、どこまで修正してくるのかが楽しみである。

日本の武術の世界では『骨』を巧みに扱うことが当たり前なのだが
スポーツの世界では『骨』のことなど意識のかけらもない。

ここ最近、目に余るくらい本屋に行けば『体幹部』の鍛える本がある。

しかし、いくら体幹部を鍛えたとしても『力』をこもらせているだけであり
『力』を流れさせているトレーニングではないのだ。

私が、感銘を受けた『韓氏意拳』の稽古では
身体から自然発生した『力』をいかに解放させるかを大事としている。

身体に『力』をこもらせている状態と
身体の『力』を解放させている状態では動作の次元が全然ちがう。

人は掴めないものは嫌がり、掴みやすいものは好んで選ぶ。

やっている感がある、固まった感じや滞った感じを『脳』は大変喜び、『身体』はとても嫌がる。
よく分からない感じ、自然な感じや伸び伸びとした感じは『身体』は大喜びし、『脳』は非常に嫌がる。

私は、常々、体幹部は弾力がある方が『力』の発生と伝達がしやすいと言っている。

それは、『骨』が動きやすい身体を創る方がいい動作ができるからである。
我々日本人は、『骨身に任せる』という言葉を使う。

あれやこれやと『頭』で考えて動作をしても上手くいくことはない!

自然体で動く動作とは、あまり『脳』を介入させないで動くことであり
違和感だらけで動くことではなく、心地良さや解放感あふれる動作こそが求めていきたいことなのだ。

”感覚”は事中であり
”感知”は事後である

”感覚”は、”感知”ではない!

『感覚が論理を超えることはない』

頭で感覚を感じることはできない!!

先日、内田 樹先生の凱風館で『韓氏意拳』の光岡先生に教えて頂いたこと。

自分の身体が声なき声で発している感覚を辿りながら
自然体で発生させる身体の持っているすごい『力』を知って欲しい。

安易な体幹部トレーニングなどをして無意味に身体を固めてしまい
身体の持つすごい『力』をなくさないで戴きたい。

もう、そろそろ目覚めてもいいのでは、、、

      感謝 

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