研究レポートReport

第34回 内観力 『甲野 善紀先生の足音』

野口体操やゆる体操を知ってから身体と体話(対話)するようになった。

昔の私は、自分の身体を自分の意識下において動かせていると思っていた。
しかし、いろんな勉強をしていくうちに分かってきたことは、自分の身体なのに自分で動かしきれていない事に気付いた。
まるで、他人に自分の身体を動かされている位のことを平気な顔をしてやってきたのである。

骨盤を動かしてみましょう! 肩甲骨を動かしてみましょう! 背骨を動かしてみましょう!

実際にやってみると分かることだが最初は全然動かそうにも動かない。
いや、正確に言うと、動かし方が分からないのである。

そんな部分を今まで意識して動かしていないのだから、いきなり動かしてみろと言われても動くはずがない。

そこで様々なアプローチの方法で動かしたい部分を一生懸命に意識しながら動かす練習をする。
意識する力を持てば持つほど、段々的確に動かしたい部分を動かせるようになってくる。 


つまり、自分の身体の内側を意識することによって動作をスムーズに行えるようになるのだが
適切な言い方かどうかは別として、動かしたい部分に対して、すぐに動かせるために神経を繋ぎ合わせるような作業を
繰り返し、繰り返し行うことによって神経回路を太くするようなイメージである。

この身体の内側を意識する方法のいいヒントを教えて頂いたのが佐久間 紀郎先生だ。 


佐久間先生は、"仏像の写真を観てみなさい"と仰られた。

私が最初の頃に興味を持ったのが『仁王像』であった。
なぜ、仁王像に興味を持ったかというと、止まっている仁王像なのに瞬時に動き出しそうに観えるからだ。
たくましい身体や怖い顔をされているから威圧感を感じるのではなく、
実際に動き出して、こちらに向かってくる気配を感じてしまうのが不思議であった。

西洋の彫刻でも、同じように筋肉が発達してたくましい身体をしている像はいくつもあるが
仁王像のように動き出す気配は感じられず、ただそこにいる(ある)だけの像にしか観えないのだ。

止まっている仁王像がなぜ、今すぐに動き出すように観えるのかだろうか?

この問いを自分自身にしたことから、身体の内側をを意識するようになり
それが成長してきたことにより身体の内側の動きを観るクセがついてきたのであった。 


身体も少々柔らかくなり、以前よりは各関節の可動域も向上していたので
仁王像の写真を見詰めながら、肩甲骨や骨盤を意識的に動かしながらポーズをとる練習をしていた。
しかし、この頃の私は、まだまだポーズの形だけを真似しているにすぎなかった。

この当時、佐久間先生とお話した内容で印象に残っているのは、仏像を彫る仏師のことであった。

昔の人が、身体の使い方が上手であったことは云うまでもないことであるが
おそらく仏師の方々も内観力(ミラーニューロン)がかなりのレベルで発達していたに違いないと思う。
でなければ、あれだけの素晴らしい躍動感溢れる動作を作り上げている動きを見抜ける訳がない。

仏師の方自身が、この動作(ポーズ)における骨の動かし方はどうなっているのか
また、この動作(ポーズ)における筋肉の動かし方はどうなっているのかが理解できていないと
あれだけのバランスの取れた仁王像が作れるはずがない。

そして、必ず、モデルになるような方がいたはずである。

想像の世界の話になってしまうが、凄い達人の動作をじっ~と観ていたのだと思う。
目に焼き付けて、目を閉じても目の中に浮かび上がってくるくらい見詰めてから
ご自身でも動きながら躍動感を確認されていたのかもしれない。

それにしても、彫る人もモデルの人も素晴らしい身体感覚の持ち主であることには間違いはない。

海外の彫刻には観えないのだが、日本の彫刻には動きの導線が観えることが本当に素晴らしいのである。

これらの経験が積み重なって、身体の内側から相手の動作を見抜ける内観力が養われていったと思う。

このことがあってから自然と日本古来の武術や武道に興味を持ち始めた。
その中でも、当時、読売巨人軍の桑田 真澄投手が復活した話題で武術家の甲野 善紀先生の名前を知った。
古武術という言葉を初めて聞いたときは恥ずかしながら"忍者"のイメージしかなかったので
どんなことをしているのか想像もつかなった。

甲野先生の書籍を何冊か購入して読んでみたのだがハッキリ言って良く分からなかった。 


捻らない、ためない、踏ん張らない、、、、? 謎だらけであった。
こんなことが本当に出来るのだろうかと疑問に思うようなこともあったが
この当時の私のレベルでは分からなくて当然であった。

そして、ある日のこと。

佐久間先生からTELがあり、甲野先生の稽古会に参加してみないかとお誘いがあった。 

息子さんも一緒に行かれるとの事で、どこか怖いもの見たさもあり参加することに決めた。

稽古会の当日。

初参加のため、遠慮深く一番後方で正座をしながら甲野先生のお越しを静寂の中で待っていた。
ちょうど、佐久間先生の近くで座っていたのだが何の気配も感じることなく、まるで風が通りすぎたように
私達のとなりを足音も立てずに甲野先生は通り過ぎていかれたのである。

これには正直、魂消て(タマゲテ)しまった。

この現代に、こんな方がいらしゃるなんて夢にも思っていなかったが
甲野先生の動作は、次元を超えた身体の動かし方をされていた。
上には上がいるとは知ってはいたが、久しぶりに雲の上の人に出会った瞬間であった。 


それから、甲野先生の稽古会が仙台で行われる時は
なるべく率先して参加させて戴きながら更なる身体操作法の向上を目指した。

そして、いろんなことを積み重ねてきた結果、
ついに、『骨整体』が誕生することになる。



次回の研究レポートは、『骨整体の誕生』です。11月20日の予定です。

 

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