研究レポートReport

第39回 内観力 『あの感覚を追い求めて、、、、』

2011年1月15日(土)、山形県の米沢市内のホテルで朝を迎えた。
この日、米沢は朝から大雪で駐車場に止めた車の雪降しが大変であった。

雪降ろしを終えて向かった先は、米沢第二中学校。
指導依頼をして戴いた、陸上部顧問の日下部 登先生とお会いした。

日下部先生は、私の現役時代のことをよく知っておられた。

聞けば、宮城教育大学出身で実業団時代の私の走りを直に見ていたとの事。
昔話に、花が咲き、会話が弾んでいた。

そんな中で、日下部先生に
なぜ、私に指導依頼をする気になったのかを尋ねたところ
私が書いていた、『研究レポート』の話になった。

"ゴールが自分に近づいてくる感覚"

"高速に身体が動いているのにも関わらず冷静な自分で居られる感覚"

"まるで、宙に浮いているかのような接地感がないキックの感覚"

"全力で走ったのにも関わらず息一つ上がらない身体の感覚"

『私も実際、ベスト記録を出した時は、
   松村先生が研究レポートに書かれていた "あの感覚"を体感していました。』 



"あの感覚"の動作は、なぜ、あの時に出来たのかは分からないのですが
いつもの動作とは、あきらかに違うことだけは分かっています。

あの時の走りが、なぜ、いつも出来ないのだろうか?

どうしたら再現性を高めることが出来るのだろうか?

このことばかりを今も追い求めているのです、、、、 "

と、日下部先生は話てくれました。

日下部先生のお話を聞いて、私は非常に嬉しくなった。
私も、『あの感覚』を追い求めてきた一人であったので共感した。

なぜならば、『あの感覚』だけは、
不思議に今も身体に残っているからである。


アスリートであれば、誰もが経験する最高の動作が出来た時の感覚。

・100mの選手であれば、ゴールが自分に近づいてくるような感覚。

・ピッチャーであれば、キャッチャーのミットが自分に近づいてくるような感覚。

・サッカーの選手であれば、ゴールが自分に近づいてくるような感覚。

・ゴルフの選手であれば、カップやグリーンが自分に近づいてくるような感覚。

例を挙げればキリがないが、各スポーツ選手が体験されている素晴らしい動作が出来たときの感覚である。

この最高の動作を、どうすれば再現性を高めることが出来るのかを
追い求めて研究を続けてきた。

この方法論を求めるに対して、間違いのない絶対的な答はないと思う。

しかし、近づける方法はいくつかあるはずである。
そして、完璧ではないものの、いくつか分かってきたことがある。

これから書くことは、私が勝手に『あの感覚』の再現性を高めるために
仮説と検証を繰り返してきたものである。

ある種の、"独り言"として見ていただきたい。

1.重心の位置が一番いいところにあること。

2.体幹部から主動した力が末端部にスムーズに流れること。

3.お腹(腹筋部分)が非常に弛んでいること。

4.顔(特に首筋)は緊張させず、むしろ"笑顔"の方がいいこと。

5.膝を上げたり、腕を振ることよりも重心(体幹部)を限り無く前方にすること。

6.頭から釣られるような感覚よりも、地面に対しての足の感覚を大切にすること。

7.身体の前側の筋肉をあまり使わずに、後ろ側の筋肉を使えた方がいいこと。

8.『7』の動作レベルを上げるために、目の使い方のコツを覚えること。

9.筋肉で動作することばかりに気を取られると、身体本来の重さ(体重)が使えなくなること。

10.『9』の動作レベルを上げるために、骨を動かす意識を高めること。

11.骨組みを動かしきれるようになる前に、筋肉だけをアップさせようとしないこと。 



12.全力で動作をする時は、意図的な負荷をかけながら行うことで
   負荷を外した時の落差(楽さ)で、少し余裕の気持ちが持てるようになること。 



以上のことを可能にするためのトレーニングを研究してきた。

そして、このトレーニングを遂行していくために必要なキーワードがある。
それは、『矛盾』の世界で動作を行っていくということ。

例えば、踏ん張らないと力を出せないと思うのが常識的な考え方であるが
実際は、踏ん張ると逆に力を上手く引き出せなくなる。

筋肉を鍛えなければ強い選手になれないと思うのが常識的な考え方であるが
実際は、骨を有効的に使えないと筋肉の力も最大限に発揮するとが出来ない。

体幹部トレーニングの内容をよく観ていると末端部を主に使わないと体幹部に負荷がかけれないものが多いが
本当は、体幹部そのものを鍛えるためには末端部を逆に制御しなければ体幹部を効果的に鍛えることが出来ない。

これらの事はすべて古武術を実践して、
私自身の身体で再現性の高い動作(技)が出来るようになったことで確信になった。

大事なことは、身体全体での動作を行い『連動性』を高めることである。
筋トレや補強トレのように、ある一部分だけを取り上げて鍛えてしまっては
身体からしたら、傍迷惑にしかすぎない。

まして、体幹部を固めてしまっては、
骨を絡めた筋肉との連動性が発揮できなくなる。
これは、尾びれを切られて泳げなくなる魚のようである。

戦後、西洋文化が入ってきてからは、
いつの間にか、筋肉信仰が増えてしまったが
私は、このことで日本人がある意味『骨抜き』にされてしまったと考えている。

身体は声を出せないが、違和感を通じて私たちに教えてくれている。
そして、何よりも身体は嘘がつけないのである。


実動作では、絶対しないようなポーズをとり、
理屈、理論で説得されて行うような無理なトレーニングをすると
当たり前のごとく、身体は嫌がり悲鳴をあげる。

しかし、出来ないこと=(イコール)筋力がないからだと言われると
この弱点を克服すると強くなれると思い込み、真面目な人ほど熱を入れて行ってしまう。 



鏡に映る、自分の姿を見て、
筋肉が付いてくるとトレーニングの効果が出てきたと喜びます。
しかし、身体の方は、まるで縄張り争いのように筋肉同士が喧嘩を始めるのです。

小さい筋肉には、小さい筋肉の役割があるのです。
大きな筋肉には、大きな筋肉の役割があるのです。
そして、みんながそれぞれの役割を果たすからこそ、いい動作を作り上げてくれるのです。

人間の身体は、骨もあります。
もちろん筋肉もあります。そして臓器もありますし、水分だって沢山あるのです。
身体は全部で身体全体なのです。

身体の本当の声を聞かなければ怪我をしてしまいます。

身体が教えてくれていた違和感に気が付かないで、
無理をしてしまい、しなくてもいい怪我をしてしまった経験をされた方に言いたい、
もし、あなたに必要なトレーニングをして最高の身体になれたら、どんな記録を出せたでしょうか?

そして、指導者の方に言いたい、
過去に強かった選手達が、なぜ、怪我をして成績が悪くなったり、引退しなくてはならなくなったのか?
どんなトレーニングをしてしまったのかを再度確認していただきたい。

"怪我をしなければ一人前になれない"

誰が、こんな馬鹿げたことを言ったのだろうか?
ただ単に、身体の声を聞かないで無理をし続けてきたツケが怪我になるのではないのか?

もうそろそろ、身体が常に求めている『心地良さ』を基準にして
自分の身体に対する意識の仕方を変えていってもらいたい。


最後に、『あの感覚』を体験した方にお願いしたい、
あの時の動作を、"まぐれ" だと思わずに、改めて堂々と求めていただきたい。

そして、一人でも多くの方が、
あの素晴らしい動作が常に出来るような指導をしていただきたい。

私も、まだまだ完璧ではありませんが
これからも追い求めていきたいと思っております。

同じ世界を共有できる方との出会いを
これからも楽しみに日々精進していきます。


この度は、勝手な独り言にお付き合いして頂きましたことに
心から感謝を申し上げます。


スポーツケア整体研究所   松村 卓

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