第26回 内観力 『試行錯誤の連続の日々』
年が明けて、1997年(平成9年)。
今年は、大阪で行われる"なみはや国体"への出場が目標であった。
冬の繁忙期を終えて、新たな気持ちで練習に打ち込んでいった。
身体の柔軟性は、以前に比べるとかなり向上はしてきたものの
肝心の走りの方は、なかなか思うように走れずにもがいていた。
ウェイトトレーニングをしなくなったから、
筋肉の硬化がすぐ取れるのかというとそんな生易しいものではなかった。
一生懸命に身体をほぐしているのだが、おもいっきり固めてしまった身体を柔らかくしていくのが大変であった。
特に、股関節と右肩関節の硬化が酷くて
自分でも分かるくらいに左右のバランスが悪かった。
一番固い部分は深部で、これがなかなか手強かったのである。
昼はトレーニングでほぐし、夜は家内に頼んで、足で筋肉をほぐしてもらった。
走る練習で上手くいかなかったのがスタート練習であった。
足の筋肉で力任せのスタートをしていた私が、骨盤と肩甲骨を活用したスタートに100%変えた。
伊東選手のように、スタートの構えを腰高にして体幹部を意識した重心移動を目指したいのだが
これが思うように出来なくて悩んでいた。
このスタートが上手くいくときは、何の力も要らないくらいに楽にスムーズに走れてしまい
そのまんま、ゴールまでスッ~と走れてしまうのだが、
失敗してしまうと出遅れるばかりか顔が早々にあがってしまいブレーキがかかってしまい走りにならない。
もがき苦しみながら100Mを走るようになってしまう。
小山先生いわく、、、、
"スタートダッシュの1歩目が上手くいかない走りにゴールはない"
と言われるくらいにスタートダッシュの1歩目は重要であった。
中腰の姿勢で、3歩、5歩、7歩を強調したスタートダッシュを行った。
3歩強調で、30Mを目安に、5歩で60M、7歩で100Mを走る練習なのだが
本当に上手く、1歩目のスタートが切れると不思議なのだが、100Mまで吹っ飛んで走れてしまうのだ。
それは、まるで全自動で身体が動いてくれているかのような感覚なのだ。
正直に言うと、"止まれない"のと"止まりたくない"という気持ちになってしまうのだ。
3歩強調で、30Mしか走らないつもりで走るのだが100Mを楽に走り切ってしまう世界。
身体のバランス、つまり力点が上手く揃うと本当にスゴイ動作が出来るのだ。
中腰の姿勢では、そこそこ走れててもスタートブロックに一度足を置くと上手く走れない。
原因は、各関節と筋肉の柔軟性や可動域が固いため、楽に余裕をもって動けるポジションにいないのだ。
この型のスタートダッシュを一日も早くマスターしたかった。
時は経ち、5月の宮城県春季陸上大会を迎えた。
この日は、両親も家内も応援に来てくれた。
家内の前で走るのは、平成3年の全日本実業団以来であった。
固い身体を柔らかくするために一生懸命に手伝ってくれた家内のためにもいい走りをしたかった。
いつも様に、初動負荷トレーニングを入念にした後、基本動作もひとつひとつ確認していく。
走り方を180度変えての初試合に緊張感が増してきた。
予選は、緊張からスタートが上手く出来ず納得のいくレースでなかったが
準決勝で、上手くスタートが出来て、10秒86のタイムが出た。
好感触の走りに喜びが湧き上がった。
決勝では、記録を狙いすぎて逆に力が入ってしまった。
スタートは失敗し、走りの流れは最悪であった。
結果は、2位で準決勝の記録を上回ることが出来なかった。
まだまだ、再現性は低くかったが久しぶりに出たレースであり
走り方を180度変えての初トライにしては上出来と判断した。
久しぶりにレースを観てくれた両親や家内も大変喜んでくれた。
帰宅後、父と今後の練習や試合の計画を話し合った。
バブル崩壊後、飲食業界も不景気の波が押し寄せていた。
ワールドウイングに行くためには、そこそこの費用がかかってしまう。
しかし、父は何とか工面するから小山先生に指導してもらえと言ってくれた。
来月、神戸で行われる第45回全日本実業団に出場する前に
ワールドウイングで練習と調整をしてから望むことになった。
"スタートの不安材料を全て消し去り、最高の走りが出来るようになってこい!"
父の熱い言葉を胸に秘めて、ワールドウイングに向かう私であった。
肩甲骨や骨盤は、実にいろんな動かし方が出来る部分なのだが
筋肉を無意味に付けすぎると関節の可動域を妨げることになってしまう。
身体は、本当に面白くていろんな部分が繋がって動いてくれるのだ。
スポーツ選手にとって、ケガや痛みはもっとも避けたい事であるが
痛みを出している部分と、痛みの原因になっている部分は違うことの方が多い。
以前、走り高跳びの選手がアキレス腱痛で悩んでおられ、いろんな治療を受けたが一向に良くならかった。
治療内容も、アキレス腱に電気治療器を当てたり、針を打ったり、マッサージや湿布を貼るなどで
痛みが出ている部分に対しての治療内容であった。
この選手の場合、左足踏み切りで動作を行うために左足のアキレス腱が痛いと思っていたのだが
私が、内観力で観たところ痛みの原因は右腕であった。
ジャンプを行うときにアクセントをつけたいが為に右腕に力みが発生していた。
その力点のズレがバランスを崩す要因となり、結果的にアキレス腱に負担がかかっていたのであった。
もちろん、各個人の筋肉バランスは違うので全員同じ原因だとは限らない。
しかし、痛みを発生してしまう原因の部分を改善しない限り、改善していかないのである。
私の尊敬する一人である、桜井 章一さんの本にも書かれていたのだが
出版関係の方で、腰痛に悩んでおられる方を目にした時に、
腰痛の痛みの原因は、顔の歪みからきていると瞬時に分かり、
その方の顔の歪みを取り除いてあげたら、腰痛が治ってしまったと書かれていた。
桜井 章一さんは、"医学的なことは全く分からない"と仰っておられますが
なぜか、その人の身体を観た瞬間に悪い部分が分かると同時に改善方法も分かるという。
常識的な考え方だと、腰痛の原因が顔の歪みからきているなんて絶対に思わない。
だが、内観力で観れる人からみれば身体を観ただけで原因が分かるのである。
自分の身体を意のままに動かせるようになってくると相手の動作を観る目が変わる。
自分自身の身体との体話(対話)。
身体を動かすコツ(骨)を早く覚えて戴きたい。
次回の内観力は、『ワールドウイングでの"天国"と"地獄"』です。8月31日の予定です。
今年は、大阪で行われる"なみはや国体"への出場が目標であった。
冬の繁忙期を終えて、新たな気持ちで練習に打ち込んでいった。
身体の柔軟性は、以前に比べるとかなり向上はしてきたものの
肝心の走りの方は、なかなか思うように走れずにもがいていた。
ウェイトトレーニングをしなくなったから、
筋肉の硬化がすぐ取れるのかというとそんな生易しいものではなかった。
一生懸命に身体をほぐしているのだが、おもいっきり固めてしまった身体を柔らかくしていくのが大変であった。
特に、股関節と右肩関節の硬化が酷くて
自分でも分かるくらいに左右のバランスが悪かった。
一番固い部分は深部で、これがなかなか手強かったのである。
昼はトレーニングでほぐし、夜は家内に頼んで、足で筋肉をほぐしてもらった。
走る練習で上手くいかなかったのがスタート練習であった。
足の筋肉で力任せのスタートをしていた私が、骨盤と肩甲骨を活用したスタートに100%変えた。
伊東選手のように、スタートの構えを腰高にして体幹部を意識した重心移動を目指したいのだが
これが思うように出来なくて悩んでいた。
このスタートが上手くいくときは、何の力も要らないくらいに楽にスムーズに走れてしまい
そのまんま、ゴールまでスッ~と走れてしまうのだが、
失敗してしまうと出遅れるばかりか顔が早々にあがってしまいブレーキがかかってしまい走りにならない。
もがき苦しみながら100Mを走るようになってしまう。
小山先生いわく、、、、
"スタートダッシュの1歩目が上手くいかない走りにゴールはない"
と言われるくらいにスタートダッシュの1歩目は重要であった。
中腰の姿勢で、3歩、5歩、7歩を強調したスタートダッシュを行った。
3歩強調で、30Mを目安に、5歩で60M、7歩で100Mを走る練習なのだが
本当に上手く、1歩目のスタートが切れると不思議なのだが、100Mまで吹っ飛んで走れてしまうのだ。
それは、まるで全自動で身体が動いてくれているかのような感覚なのだ。
正直に言うと、"止まれない"のと"止まりたくない"という気持ちになってしまうのだ。
3歩強調で、30Mしか走らないつもりで走るのだが100Mを楽に走り切ってしまう世界。
身体のバランス、つまり力点が上手く揃うと本当にスゴイ動作が出来るのだ。
中腰の姿勢では、そこそこ走れててもスタートブロックに一度足を置くと上手く走れない。
原因は、各関節と筋肉の柔軟性や可動域が固いため、楽に余裕をもって動けるポジションにいないのだ。
この型のスタートダッシュを一日も早くマスターしたかった。
時は経ち、5月の宮城県春季陸上大会を迎えた。
この日は、両親も家内も応援に来てくれた。
家内の前で走るのは、平成3年の全日本実業団以来であった。
固い身体を柔らかくするために一生懸命に手伝ってくれた家内のためにもいい走りをしたかった。
いつも様に、初動負荷トレーニングを入念にした後、基本動作もひとつひとつ確認していく。
走り方を180度変えての初試合に緊張感が増してきた。
予選は、緊張からスタートが上手く出来ず納得のいくレースでなかったが
準決勝で、上手くスタートが出来て、10秒86のタイムが出た。
好感触の走りに喜びが湧き上がった。
決勝では、記録を狙いすぎて逆に力が入ってしまった。
スタートは失敗し、走りの流れは最悪であった。
結果は、2位で準決勝の記録を上回ることが出来なかった。
まだまだ、再現性は低くかったが久しぶりに出たレースであり
走り方を180度変えての初トライにしては上出来と判断した。
久しぶりにレースを観てくれた両親や家内も大変喜んでくれた。
帰宅後、父と今後の練習や試合の計画を話し合った。
バブル崩壊後、飲食業界も不景気の波が押し寄せていた。
ワールドウイングに行くためには、そこそこの費用がかかってしまう。
しかし、父は何とか工面するから小山先生に指導してもらえと言ってくれた。
来月、神戸で行われる第45回全日本実業団に出場する前に
ワールドウイングで練習と調整をしてから望むことになった。
"スタートの不安材料を全て消し去り、最高の走りが出来るようになってこい!"
父の熱い言葉を胸に秘めて、ワールドウイングに向かう私であった。
肩甲骨や骨盤は、実にいろんな動かし方が出来る部分なのだが
筋肉を無意味に付けすぎると関節の可動域を妨げることになってしまう。
身体は、本当に面白くていろんな部分が繋がって動いてくれるのだ。
スポーツ選手にとって、ケガや痛みはもっとも避けたい事であるが
痛みを出している部分と、痛みの原因になっている部分は違うことの方が多い。
以前、走り高跳びの選手がアキレス腱痛で悩んでおられ、いろんな治療を受けたが一向に良くならかった。
治療内容も、アキレス腱に電気治療器を当てたり、針を打ったり、マッサージや湿布を貼るなどで
痛みが出ている部分に対しての治療内容であった。
この選手の場合、左足踏み切りで動作を行うために左足のアキレス腱が痛いと思っていたのだが
私が、内観力で観たところ痛みの原因は右腕であった。
ジャンプを行うときにアクセントをつけたいが為に右腕に力みが発生していた。
その力点のズレがバランスを崩す要因となり、結果的にアキレス腱に負担がかかっていたのであった。
もちろん、各個人の筋肉バランスは違うので全員同じ原因だとは限らない。
しかし、痛みを発生してしまう原因の部分を改善しない限り、改善していかないのである。
私の尊敬する一人である、桜井 章一さんの本にも書かれていたのだが
出版関係の方で、腰痛に悩んでおられる方を目にした時に、
腰痛の痛みの原因は、顔の歪みからきていると瞬時に分かり、
その方の顔の歪みを取り除いてあげたら、腰痛が治ってしまったと書かれていた。
桜井 章一さんは、"医学的なことは全く分からない"と仰っておられますが
なぜか、その人の身体を観た瞬間に悪い部分が分かると同時に改善方法も分かるという。
常識的な考え方だと、腰痛の原因が顔の歪みからきているなんて絶対に思わない。
だが、内観力で観れる人からみれば身体を観ただけで原因が分かるのである。
自分の身体を意のままに動かせるようになってくると相手の動作を観る目が変わる。
自分自身の身体との体話(対話)。
身体を動かすコツ(骨)を早く覚えて戴きたい。
次回の内観力は、『ワールドウイングでの"天国"と"地獄"』です。8月31日の予定です。